美術系古書店【WolsBooks】

古書を通じて人々へ芸術を繋ぐことに挑戦されているWols Books店主の河村さんより、神保町に新しくオープンする古書店の内装デザイン・施工のお話しをいただいた。

木工所を拠点にものづくりを行う我々としては、アナログとデジタルのせめぎ合いの中で奔走する姿勢に強く共感し、その勇気ある旗揚げの一助となるべく空間づくりをスタートさせた。

対話を繰り返す中で、長年この地で古書店を生業にしてきた店主の独立店舗として、これまでの古書店像を継承しながらもこれからの時代に繋がる書店づくりを大きなテーマとした。

 神田神保町の歴史を繋ぐという意味を込めたひと繋がりの木製家具は、デジタルファブリケーションによって製作されている。デジタルファブリケーションを製造に組み込むことは、労働効率性の向上を図るだけではなく、機能性とデザイン性を兼ね備える可能性を秘めている。

家具の組立て方法をNC加工によるダボ継ぎ工法とすることで、工程を簡素化しつつ、今後の展開によっては分解・転用するなどの要求に対応できる柔軟性と持続可能性を獲得している。

また、デザイン部分においてもダボ継ぎ工法を応用することで、書店で重要な役割を担う「面陳」と呼ばれるディスプレイスペースをつくりだし、機能とデザインが深く結びついた本棚づくりを実現している。

家具の基材は北海道の白樺間伐材を採用しており、木製家具で満たされたこの空間は、利用する人々に対して自然に囲われるような心地よさの中で本に触れる機会をつくりだしている。

ひと繋がりで連続する天板は自然素材のリノリウム仕上げとし、経年による時間的価値のよりしろとしている。小口は合板の積層模様を意匠としながら、本の出し入れによる小口の劣化を予防するために上下3分のアールをとり、美観と機能性を兼ね備えた仕様とした。


入口から始まり、店舗を包み込むように一周して、また街へと延びていくような余白ある本棚配置によって、本に囲われる居心地の良さを増長させるとともに、神田神保町という街全体に視野を向け、古書店街に対する意識を広げていくきっかけとなることを願っている。

日々の忙しさで忘れがちな、感性の世界へと没入する根源的な幸福がこれからの時代の豊かさに繋がると考えている。

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